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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)816号 判決 1949年11月19日

被告人

林成煥

外三名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審に於ける訴訟費用は全部被告人林成煥、同崔鳳寬の負担とする。

理由

被告人林成煥同崔鳳寬の弁護人加藤謹次、被告人河載潤同南間道並に両被告人の弁護人鈴木只助同内藤三郞の控訴趣意は同人等名義の末尾添付の控訴趣意書と題する書面記載の通りである。

加藤弁護人の控訴趣意第一点の(一)について

刑事訴訟法第二百九十二條の規定は公判手続に於て証拠調そのものの行われるべき順位を定めたもので証拠調は同法第二百九十一條の手続が終つた後これを行うのである。そこで二百九十一條の手続は第一に檢察官の起訴状朗読、第二に被告人に対する默否権その他の権利に関する告知が行われ第三に被告人及び弁護人に対し被告事件について陳述する機会を与えることを定めているが、此の第三の場合に於て被告人又は弁護人の公訴事実に対する総括的陳述の後裁判長が刑事訴訟法第三百十一條第二項に基き被告人の供述を求めることは進んで事実審理を爲す上に於て爭点を明かにする爲めに当然爲し得るところであつて被告人の供述を求めることは証拠調ではないから此のことはもとより刑事訴訟法第二百九十二條に違反するものでもない。

故に本件に於て証拠調に入るに先立つて裁判長が被告人の供述を求めていることは所論の通りであるがそれは毫も訴訟手続に違背するものではない。論旨は理由がない。

同第一点の(二)について、

檢察官のいわゆる冐頭陳述は証拠調の冐頭に於て立証方針を明らかにする爲めのものであるから事案の性質によりその陳述が詳細であることを要し又は簡單で足りることは当然である若し檢察官の陳述が簡單なる爲め立証方針が不明で爾後の手続進行に差支を生ずる場合はよろしく裁判長が釈明を求むれば足るのである。本件に於て檢事の爲したいわゆる冐頭陳述は所論の通りで誠に簡單に過くる嫌はあるけれども事案の單純なる点からして裁判長はそれで充分なりとして手続を進行したものと認められるし又被告人弁護人の防禦に於ても別段支障を生した跡はないから此の樣な冐頭陳述でも刑事訴訟法第二百九十六條に違反するといわれない。論旨は理由がない。

控訴趣意書

被告人 林成煥

同 崔鳳寬

右林成煥に対する窃盜崔鳳寬に対する賍物牙保被告事件に付控訴趣意を陳述すること次の通りであります

第一点 原審は判決に影響を及ぼすことあるへき訴訟手続上の違法があります。

(一)原審裁判官は本件に限らず大抵の事件に付刑事訴訟法第二百九十一條の手続に時としては起訴状の釈明及び被告人に対して被告事件について陳述する機会を与へる範囲を超えて旧法の所謂事実審理に入られる傾向がありますが、かくては檢察官の立証前に裁判官に予断を抱かせるような傾きにありはせぬかと思科するものであります。

本件の如き第三回公判に至つて初めて証拠調に入つて居りますが(一二七丁表より一二八丁裏迄)刑事訴訟法第二百九十二條によりますれは証拠調は第二百九十二條の手続が終つた直後になさるへきものであり事実審理の必要ありとしますれは証拠調の終つた後になされるのが新法の建前でなかろうかと存ずる次第でありましてこの点に於て原審は刑事訴訟第二百九十二條違反でなかろうかと思料致します。

(二)次に檢察官は冐頭陳述に於て「証拠により証明すへき事実は本件公訴事実並云々」とあつさり片付けられて居りますか(一二七丁表)刑事訴訟法第二百九十六條の趣旨は起訴状記載の公訴事実を分折して各個の事実毎に具体的に如何なる事実を立証しようとするかを明らかにすへきものであり、又証拠を羅列した丈では如何なる証拠を以て如何なる事実を立証するのか不明瞭であり少くとも原判決に記載してあります程度に各項の事実毎に証拠を摘示しなければならぬと思科します、この点に於きまして原審は刑事訴訟法第二百九十六條違反であると思科致します。

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